アートグループ様

『戦略経営者』2018年11月号より転載

余凱社長(右)と塩谷純正税理士

余凱社長(右)と塩谷純正税理士

劇的業態転換と金融機関との協調で
横浜中華街を救う

アートグループ 余凱社長

ソシアス税理士法人 塩谷純正税理士

横浜中華街に本拠を置くアートグループ。株式会社アートを中心に、不動産事業や中華料理店を5社で運営している。代表の余凱(よがい)氏は、横浜中華街発展会共同組合の副理事長もつとめる街の有力者だ。

「横浜中華街の昔の栄華を取り戻すことが、私の重要な仕事のひとつです。この街をどうにかして立て直したいという思いが、現在の当社の業容につながっています」と余社長は言う。

周囲の制止を振り切る決断力

中国で大学卒業後まもなく、バブルまっただ中の1988年に来日した余社長。大阪の大手百貨店でカーペットを販売する毎日。それなりに楽しい生活を送っていたが、阪神大震災をきっかけに横浜へ。大阪時代に蓄積したノウハウを使いカーペット販売業を始める。富裕層をターゲットに、イランやトルコ、中国の天津などから高級手織りカーペットを輸入・販売。年商2億円を売り上げるまでに。

「あまりもうけようという意識はなく、弟とのんびりやってました。自然と人脈が広がり、それが後の不動産業につながったのだと思います」(余社長)

看板店『桂宮』の豪華な店内と外観

看板店『桂宮』の豪華な店内と外観

リーマンショック後、景気の低迷と生産地の人件費上昇など逆風にさらされるやいなや、潔く撤退。在庫を処分して約1億円、銀行からも融資を受けて計2億円余りの資本金をつくり、不動産事業へと転身。このあたりは余社長の楽天性とフットワークのたまもの。

当初は会社を6つ設立して、それぞれ一つずつ、6つのマンションを購入。家賃収入で順調なスタートを切ったが、余社長の胸中は複雑だった。

「事業としては安定しているのですが、おもしろくない。そんなときに中華街の衰退が目に入ったのです。私に何かできないかと考えました。そこからが苦労の始まりでした(笑)」(余社長)

まず、中華街に一つ目の店舗ビルを購入。内装と合わせると約2億円かかった。このとき、マンションを2棟売却。

「頑張って中華街の不良物件を、日本の会社より先に購入して、店舗として再生させることが私の目標となりました。現在は6店舗を運営していて、そのうち2店舗は直営店です」

カーペット→マンション→中華街店舗と極めてダイナミックな転換を短期間に成し遂げた余社長。創業時から同社の税務を見ているソシアス税理士法人の塩谷純正税理士はこう述懐する。

「カーペットから不動産業に転身されたときは正直驚きましたし、周囲からも止められたと聞いています。しかし、そこは余社長の決断力が勝ったということでしょう」

とはいえ、余社長は決して無謀な経営者ではない。現在、グループ5社で9つの不動産を運営しているが、それもこれも計数管理を精緻に行うため。それぞれの会社にTKCの自計化ソフト『FX2』を導入している。塩谷税理士は言う。

「当事務所のそれぞれの担当が、毎月巡回監査・月次決算を行っています。部門別(店舗別)管理を行っているようなものですね。社長はその結果を見ながら、迅速な経営をされている。展開の速い会社なのでキャッシュフローの把握が最重要課題。そこにお応えできるようにしているつもりです」

余社長が続ける。

「当社は財務管理は安心してソシアス税理士法人さんに任せています。金融機関からちょっと難しいことを要求されたら、〝顧問税理士に聞いてくれ〟と(笑)。本当に頼りにしています」

実は以前、グループの一部の会社は、別の税理士事務所が顧問をつとめていたという。ところが「年に1回の記帳代行のみだったので、リアルタイムの業績やキャッシュフローがさっぱり分からない。これはダメだと、ソシアスさんに統一しました」


金融機関との関係性という意味では、昨年導入した「TKCモニタリング情報サービス(※)」の利便性を実感していると余社長は言う。

「月次試算表と年次決算書が、ソシアスさんからオンラインでリアルタイムに金融機関に送付されるので、これまでのように融資をお願いするたびに資料をそろえる必要がない。先方も、私の顔色を見ながら資料提出を依頼するのは嫌だったでしょう(笑)。その意味でも非常に助かっています」

さらに余社長は続ける。

「このサービスの導入によって会社の透明度が上がり、金融機関も不信感が薄れたようです。以前は融資を依頼する際に提示したデータをみて担当者が不安がり、断られることもままありました。事業の性格上、負債が多いからでしょうけど、やはり実態が正確かつタイムリーに伝わっていなかったのが大きかったのだと思います」

しかし、TKCモニタリング情報サービス導入後は状況が一変。「当社と金融機関の関係性は、今が一番良い状態ではないでしょうか」と余社長は言う。

同サービスの対象はメインの横浜信用金庫とサブ銀行2行。「気の合わない金融機関の担当者とも、必要以上に顔を合わせなくていいのもありがたいですね」と余社長は冗談ぽく笑う。

中国と日本の架け橋に

塩谷税理士は、そんな余社長の印象について「われわれの提案するものはほぼ受け入れていただいており、とても良いお客さまです。とくにTKCモニタリング情報サービスについては、同社のダイナミックな業態にフィットしたと感じています」という。

 最近では、貿易事業(日本の生活雑貨輸出)や食材の卸事業(米、エビなどの中華料理店への供給)にも進出。売り上げの大幅かさ上げが見込まれ、今年度の売り上げは約25億円(昨年度の3倍)を見込む勢い。緻密な計数管理を土台にしながら、余社長の手腕が冴え渡りつつあるという印象だ。

 さて、2018年11月1日~30日(メインイベントは22日、23日)に、第11回美食節横濱中華街フードフェスティバルが開催される。今回初めて大通りを大々的に開放し、贅(ぜい)をこらした食の祭典となる。余社長も、このイベントに深く関わり、中華街復活の起爆剤にしようと意気込んでいる。

「当社は中華街の復活・発展を目指していますが、将来的には中国と日本の架け橋になりたいですね。そのため、人材あっせんやホテル事業、老人ホーム事業などへの進出も計画しています」

 なんともバイタリティーあふれる経営者である。

アートグループ

アートグループ(株式会社アートほか4社)

設立   1995年11月

所在地  神奈川県横浜市中区山下町151-3

売上高  約25億円(今年度見込み)

社員数  25名

URL   http://www.artchinatown.jp/